建築士とは
建築士とは、特定もしくは一定規模以上の建物の設計業務を行う専門家のことです。建築士は国家資格で一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類あり、建物の構造や用途によってそれぞれの業務範囲が定められていますが、基本的には以下の業務を行うことが多いです。
- 建築物の設計及び工事管理
- 建築主に対する重要事項説明
- 建築工事の指導監督
- 建築工事契約に関する事務
- 建築物に関する調査または鑑定
二級建築士とは
都道府県知事の免許を受けて、設計や工事管理の業務を行う資格を有する専門家です。二級建築士が設計できる建物は「延べ面積500㎡以下の公共建築物」、「木造建築物」などのように上限が設定されています。仕事内容としては、一般的な戸建て住宅程度の規模の建物が中心となります。
一級建築士とは
国土交通省の免許を受けた専門家で全ての建築物の設計や工事管理を行うことができます。つまり、超高層ビルやマンション、戸建てまで階数や用途などを基準とした制約を受けずに業務を行うことができます。二級建築士と比べると仕事の幅や勤務先が幅広いのが特徴と言えるでしょう。
建築士の平均年収と転職市場
人材不足が顕著な建設業のなかでも、独占業務が定められている建築士は需要と将来性、年収が高い傾向があります。一級建築士と二級建築士のそれぞれの年収について確認していきましょう。
一級建築士の平均年収
厚生労働省の「平成29年賃金構造基本統計調査」では、男性の一級建築士のおおまかな平均月収は43万円、賞与は136万円、年収は653万円となっています。また、女性の一級建築士は月収36万円、賞与が126万円、年収が561万円です。
同じく、厚生労働省が実施した「2019年国民生活基礎調査」によると、世帯ごとの所得金額の中央値は437万円であることから、一級建建築士の平均年収は他の産業と比べても高いということが分かります。
また、独立することでより多くの収入を得る機会もつくれますし、大手ゼネコンや建築事務所であれば800~1000万円クラスの年収になることも可能です。一級建築士は様々なキャリアに活かせる資格と言えるでしょう。
二級建築士の平均年収
二級建築士の平均年収については公的なデータは存在しませんが、300万円から500万円を超えるなど勤務先によって差があります。ハウスメーカー、工務店、設計事務所、ゼネコンなどが主な勤務先となりますが、基本的に戸建て以上の建物の設計は業務範囲外なので平均年収は一級建築士ほど高くないと考えられます。ただ、経験を積めば「年収600万円以上」といった企業に転職する機会もあります。
建設業界の転職市場
国土交通省によると、建設業全体の就業者は1997年の685万人から2017年時点で498万人まで減少。さらに建築士を含む建設技術者も、41万人から31万人と大きく減っていることが明らかになっています。
また、2021年8月時点の建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は5.36倍と非常に高くなっています。このことから、建築士の転職は「売り手市場」であると言えるでしょう。
■職業別有効求人倍率の推移(建築・土木・測量技術者)
年度 | 有効求人倍率 |
---|---|
2013年 | 3.16倍 |
2014年 | 3.69倍 |
2015年 | 3.75倍 |
2016年 | 4.36倍 |
2017年 | 5.07倍 |
2018年 | 5.51倍 |
2019年 | 5.86倍 |
2020年 | 5.18倍 |
2021年(8月) | 5.36倍 |
過去の有効求人倍率の推移からも、建築士の需要は常に高水準を保っていることが分かります。この大きな要因として、建築士は新しい建物だけでなく、現在、問題になりつつあるバブル期などに相次いで建設された老朽化した建物の取り壊しや建て替えにも必要不可欠な存在であることが挙げられます。そのため、安定して需要が高く、オリンピックの終了や新型コロナウイルス感染症の影響もそれほど大きくないと考えられています。
このように一級建築士、二級建築士の転職は他の業種と比べると転職先や転職条件にこだわりやすい環境であると言えます。そのため、しっかりと自身のキャリアや働き方を考え、それを叶うための条件に適切な優先順位を付けてから転職先を探すことで、より生き生きと働ける企業と出会える可能性が向上するのではないでしょうか。
※出典:国土交通省「建設業を取り巻く現状について」
※出典:政府統計の総合窓口「統計で見る日本」
一級建築士と二級建築士の転職先
建築士の転職先は非常に多様です。そのため、転職活動を始めたときに応募先企業の種類の多さに驚く建築士の人も少なくありません。転職先は建築士としての働き方やキャリアを築くうえの土台となるので、しっかりと選ぶ必要があります。建築士の転職先の代表的な企業と少し意外な働く場所を紹介します。
ゼネコン
大手、準大手、中堅、中小などのゼネコンは建築士の代表的な職場の1つです。一級建築士と二級建築士のどちらも建設許可の必須条件である「建設技術者=建築士」はゼネコンに必要とされています。ただし、基本的に大手のゼネコンになるほど所属する建築士の数が多くなり、転職は難しくなる傾向があります。
また、業務内容は営業所や工事現場に常駐して工事監理・現場管理を行うことが多く、設計部などに所属して設計業務を手掛けられる人の割合は前者と比べると少なめです。
設計事務所
建築士であれば設計事務所への転職を希望する人は多いのではないでしょうか。設計事務所には中規模以上の事業系物件を取り扱う「組織系設計事務所」と比較的小規模で建築家が運営する「アトリエ系設計事務所」の2種類があります。
さらに組織系設計事務所のなかにも「意匠設計」、「構造設計」、「設備設計」という建築設計の種類によって、得意分野や専門分野が異なります。そのため、建築事務所から他の建築事務所への転職することで建築士としてのキャリアチェンジを図る人も少なくありません。
働き方としては、組織系設計事務所は各設計部門に配属されて担当された範囲の業務を中心に行うことが多いです。アトリエ系設計事務所は主に「意匠設計」がメインになることが一般的です。ただし、組織系設計事務所は分業体制が整っている傾向がある一方、アトリエ系の設計事務所は小規模のため業務範囲が広くなる可能性があります。
デベロッパー
土地や建物を取り扱うデベロッパーや不動産会社も建築士の需要が高い転職先候補の1つです。ただし、ゼネコンや建築事務所のようにデザインや設計業務、工事監理ではなく、設計の知見を活かしてさらに上流工程である調査やコンサルティング、マスタープランの作成などを担うケースが多いです。
ハウスメーカー
戸建て住宅を売買するハウスメーカーは、二級建築士の需要が高い企業です。建売・注文住宅のどちらにしても建築士は必要であり、ゼネコンや建築事務所と比べると二級建築士でもプランニングから設計・開発まで行える案件が多いため、より多くの経験が積めるのが特長です。
設計事務所やゼネコンとの大きな違いは、住宅の購入者との商談が必要なことです。そのため、コミュニケーション能力や住宅の「生活スタイル」まで含めた提案、設計が求められます。
PM/CM会社
都市計画や建築物の工事における工期の遅延や、予算超過を防止するため「プロジェクトマネジメント(PM)」と「コンストラクションマネジメン(CM)」を行う企業がPM/CM会社です。
具体的な業務は工事発注方式や設計のアドバイス、工程・品質・コスト管理といったマネジメント業務など、契約によって様々です。基本的に中規模以上の工事が中心となるため、一級建築士が求められることが一般的です。
大手企業の店舗設計・デザイン部門
一級建築士であれば、建設事業以外が本業の企業にも転職する機会が増えます。例えば飲食や衣料といった大手小売店が設けているデザイン・施工管理部署も転職先候補の1つです。
建設コンサルタント会社
建設コンサルタント会社は、商業施設や公共交通機関など規模の大きな建築の地域調査、地域住民との折衝などを行います。一級建築士は専門知識を活用して、計画の立案から関与して実際に実現できるかを調査・調整する役割を担うことができます。
建築士の転職のコツ
建築士の転職で失敗しないためには、自身の希望する働く条件やキャリアに適した企業を選び、採用されるために書類や面接を突破するコツを押さえる必要があります。最後にそれぞれの代表的なポイントを紹介します。
キャリアや経験を積みたい業務を明確にする
建築士が担える仕事の種類は非常に多く、設計業務だけでも意匠設計、構造設計、設備設計の専門分野があります。さらに施工管理や各種検査関係、コンサルタント、プランニングなど様々な職種があるので、幅広いキャリアを歩めるチャンスが多いのが建築士のメリットと言えるでしょう。
一方、転職活動時にある程度、自身のキャリアについて明確にしておかなければ「設計業務を極めたいのに現場の仕事ばかり」といったギャップに悩んでしまうリスクが高まります。そのため、建築士の転職は数ある職種のなかでもしっかりと計画的に行う必要性が高いのです。
応募先に適した志望動機を設定する
転職したい企業や職種が決まったら、その企業に適した志望動機を設定しましょう。前述のとおり、建設業界の企業といっても募集する部署や会社の業態によって建築士に求めている役割は異なります。そのため、複数の職種や異なる業務の求人に応募する際に志望動機を使い回すことはおすすめできません。
建築士の資格を活かした実務のエピソードを伝える
建築士はとても価値の高い資格ではあるものの、志望する企業の求人に応募しているのは同じ建築士の資格保持者ばかりです。ライバルと差別化を図るためにも、建築士の資格を活かした現職でのエピソードを伝える必要があります。
建築士の志望動機(例)
志望動機は「転職理由」とセットで考えることが一般的です。転職理由は志望動機から逆算して前向きなものにするのがセオリーです。例えば、志望動機が「設計業務の裁量が大きい」のであれば「前職は設計がパターン化されていた」と前置きすると自然です。
ほかにも志望動機が「意匠・構造・設備の幅広い業務に携われる」の場合は「前職は業務範囲が限られていた」といった転職理由が考えられます。反対に「意匠設計に特化できる」というケースは「前職は業務の幅が広すぎた」いう理由にもできるでしょう。
「給料が安い」「激務だった」「人間関係が悪かった」という理由は、マイナスな評価につながる可能性があるので必要以上に発言しないことを心がけましょう。
建築士の転職は事前準備と計画が重要
建築士の転職事情について解説しました。一級建築士と二級建築士はどちらも需要が高く、転職先の種類にも恵まれているのが特長です。ただ、選択肢が豊富なだけにしっかりと自己分析して転職しなければ「思っていた環境と違った」と後悔してしまう可能性が高まります。
建築士の転職のリスクを下げるためには転職エージェントの活用がおすすめです。例えば年間約12,000人の転職相談を受けている転職エージェントサービス「ヒューレックス」の場合、建設業界専任のコンサルタントが自己分析から企業の選定、さらに面接対策まで徹底サポートしてくれます。
また、スケジュールも調整してくれるので忙しい建築士の方でも計画的に転職活動を進めやすくなるのもメリットです。無料で様々なサポートを受けられるので、転職を検討している建築士の方はぜひヒューレックスをご利用ください。
この記事の監修
松橋 拓弥
宮城県出身。大学卒業後、東日本大震災をきっかけに大手建設会社で施工管理と営業業務に6年従事。その後その経験を活かし、大手人材紹介会社の建設領域でキャリアコンサルタントとして常にトップクラスの実績をおさめる。転職においては「キャリア」だけでなく個々人の「夢」と「想い」の実現のお手伝いが大切であると考え、求職者第一に転職支援に取り組む。
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