目次
地方創生とは?
地方創生とは、東京圏以外の各地域がそれぞれの地域の良さを活かして、住み続けられる街を作り出すこと。
東京一極集中が進む現代の日本で、地方の人口減少に歯止めをかけるための政策として、2014年に取り決められました。この年に施行された「まち・ひと・しごと創生法」は地方創生の基本理念を定めたもので、少子高齢化社会の対策や地方での人材育成の方針について触れられています。
地方創生を目指す政府は地方自治体に交付金を支給したり、政府関係機関の地方移転を計画したり、地方創生コンシェルジュと呼ばれる相談窓口を設置したりと、さまざまな方策を実行しています。
地方創生に関わる仕事
地方創生に関わる仕事には、さまざまな種類があります。ここでは特に地方創生に結びつく仕事を7つピックアップしました。
- 観光プランナー
- デベロッパー
- ゼネコン
- コンサルタント
- NPOスタッフ
- 地方公務員
- 地元企業の従業員
それぞれ詳しく解説します。
観光プランナー
観光プランナーは地方が持つ魅力や特徴を活かし、ツアーの企画や観光資源の創生などに関わる仕事です。近年では、特定の地域にしかない文化や習慣を体験したり、地域に住んでいる人との交流ができたりする観光に注目が集まっています。
観光プランナーには、まちづくりの一環として地域ならではの魅力を発掘する発想力や、お客さんを呼びこむためのブランディングを含めた企画力など、地域と観光を結びつける複合的な知識と能力が求められます。
地元に住んでいる人では気付けない視点を持つことで、観光のみならず地域コミュニティに関わるビジネスの創生という点でも、まちづくりを支え地方創生に貢献する職業です。
デベロッパー
デベロッパーは都市計画の中心を担う、地方創生に欠かせない仕事です。ディベロッパーの仕事は、主に次の3つに分けられます。
- 土地の取得
- 開発に向けた企画
- 建設後の販売
まず、開発に適した土地であるか情報収集し、開発用地として取得するための交渉を進めます。次に、取得した土地を利用する人や地方の環境に合わせて、開発する商業施設やマンション建設のコンセプトを決め、建物をデザイン・設計します。
建設後はテナントの誘致やマンションの販売、賃貸管理といった運営・管理まで、都市開発を多方面から支えます。このように、土地開発をあらゆる面から支え、推進する仕事といえるでしょう。
ゼネコン
ゼネコンは「ゼネラルコントラクター」の略で、商業施設やマンションなど大型建築物の建設・施工管理といった工事全体を取りまとめる仕事です。主に3つの業務があります。
- 設計
- 施工・安全管理
- 研究
設計では、ディベロッパーが企画開発した都市計画を形にするために、外観のデザインから建物の内部構造や設備を設計します。
また、設計に基づいた工事を予定通り進めるためのスケジュール管理、材料や人件費のコスト管理、建築物の品質管理と建設中を含めた安全管理もゼネコンの仕事です。
そして、設計・施工の効率化と耐震性の向上など技術開発の研究まで行います。
コンサルタント
コンサルタントも地方創生に貢献できる仕事です。コンサルタントによっては、まちづくりに特化した地域のブランディングや観光面での企画・提案を行います。
地方によっては、観光客や若い人材を呼び込みたいと考える一方、方法や効果が分からず具体的な対策を進められないケースも少なくありません。コンサルタントはさまざまな地方創生の事例を分析・研究し、対象地域の特徴・文化と照らし合わせて、必要な開発や企画を提案します。
デベロッパーやゼネコンのような大規模な新規開発とは異なり、「今ある地域の魅力をどのように伝えるか」を提案するのがコンサルタントの特徴です。
NPOスタッフ
NPOスタッフとして地方創生に関わることもできます。NPOとは「非営利団体」の略称で、収益を目的とせずに社会貢献活動を行う団体です。活動で得た収益は、基本的に社会貢献に役立てます。
NPOの中には、地方創生を目的として活動する団体もありますが、他の仕事と異なり具体的な活動内容は決まっていません。地域の住民や自治体に協力して独自の商品を企画開発したり、地元企業の活動支援をしたりするなど、地域ごとに求められるさまざまな仕事に対応します。
参加者は高校生や大学生、若手の社会人から現役を終えたボランティアまで幅広く、地域活性化という同じ目的を持っています。
地方公務員
地方公務員は、どの部門や職種でも地方創生に関わることができるでしょう。地域によって名前は異なりますが、地域活性化やまちおこしを中心となって進めるための専門部署が設けられている自治体もあります。
仕事内容は、コンサルタントやNPO団体の協力を得て地方創生に取り組んだり、住みやすいまちづくりを目指したインフラ整備や政策を進めたりと幅広いのが特徴です。
警察官や消防隊員も地方公務員の一つであり、地方創生に欠かせない地域の安全と治安維持に貢献しています。このように街をつくる仕事から地域を守る仕事まで、地元に根ざして活躍する仕事です。
地元企業の従業員
地方の企業で働いている従業員は、地方創生に不可欠な存在です。どのような企業であっても、地方で働くこと自体が地方創生に貢献するでしょう。
農業や漁業の一次産業では、若手従業員の不足が生産量や収穫量に影響し、売り上げが減少しています。商店街やホテルも地元企業の運営が多く、従業員たちは観光客に地域の魅力を伝える重要な役割を果たしています。
これらの企業が地域経済の基盤を支えているため、地元企業の従業員はまちおこしや都市計画において非常に重要な存在といえるでしょう。
地方創生に関わる仕事の業種
地方創生に関わる仕事の主な業種は次の通りです。
- 農業・漁業
- 観光・旅行
- 建設・不動産
- IT
- 広告・メディア
どのような業種なのか、詳しく解説します。
農業・漁業
農業や漁業は古くから地域の産業と経済を支えてきた業種です。農業や漁業が盛んな地方の特産物は、その土地でしか手に入らない一次産業の産物を資源とする場合も少なくありません。
しかし、従事する人口が減った現在、後継者がいなければ廃業し、特産物がなくなる可能性もあります。廃業によって使われなくなってしまった土地は野原となり、人が住めない場所が増えていく悪循環にも繋がります。
地方で農家や漁師として働くことは、地域の文化を守る後継者となって、地方創生の主軸となる産業を根底から支えることに貢献する重要な職種です。
観光・旅行
観光や旅行は地域活性化を直接的に支える業種です。地方創生の一環で、地域を観光地として盛り上げるために取り組みを進めている自治体や地元企業も多くあります。
地方創生だけでなく、日本経済の発展にも繋がるのが観光・旅行のしごとです。国土交通省「国土交通白書 2023」では、観光を「地方創生の礎」とし、観光先進国の実現に向けた具体的な取組みを紹介しています。
地域の魅力を紹介することはもちろん、流行りに合った方法で観光客を呼び込むための企画提案が求められるでしょう。地域の特色を伝えるサービスやおもてなしに工夫をすれば、旅行者の満足度を上げるだけでなく、リピートや口コミでさらなる集客に繋がります。
建設・不動産
地方創生には不動産業・建設業が必須です。大規模な都市開発はもちろん、「既存の建物をいかに活用するか」が求められるためです。
都市開発に伴うマンションやビルの建設には、デベロッパーやゼネコンと共に不動産業が携わっています。不動産会社では、ホテルや商業施設の誘致によって人を呼び込み、観光・旅行業と共に地域の活性化に寄与できるでしょう。
また、地元で長く不動産を取り扱ったり建設を担っている地場の企業は、地方課題の空き家問題に取り組んでいるケースも少なくありません。都市開発も空き家問題も、土地活用という面から地方への人口流入を促すことで、地方創生に貢献できる業種です。
IT
観光業から農業まで、地方創生に関わるすべての業種で活用が求められているのがITです。地方自治体で使用している事務システムや業務の仕組みは、新たなITツールやインフラ整備への取り組みが遅れがちになっているところも珍しくありません。
野村総合研究所(NRI)の都道府県別DCIスコア(2023年)によれば、地方に進むほどDCI(デジタル度)が低い傾向にあると分かっています。1位は圧倒的な数値で東京であり、2位に愛知、3位に兵庫と都市部が続きます。一方、ランキングの下位は山形や和歌山、島根といった地方部です。
このように、都市部はまだはだデジタル化で課題が残ります。このような課題を解決に導けるのがITです。例えば、次のような取り組みが挙げられるでしょう。
- 地域特産品のオンライン販売プラットフォームの構築
- 農業用ドローンやセンサーを活用したスマート農業の導入
- 観光案内アプリやデジタルサイネージの設置による観光客の利便性向上
ITの技術や知識を身につけることは、地方創生だけでなく、転職や独立などご自身のキャリアプランにも役立ちます。
広告・メディア
メディアや広告は地方へ人を呼び込み、地域活性化を図るために必須の業種です。旅行先や移住地に選ばれるための取り組みをしても、地域外に知ってもらうための発信をしなければ人が集まらず、地方創生には繋がりません。
広告会社では地方創生に取り組む地域をSNSやWEBメディアで紹介したり、観光スポットとして雑誌やガイドブックに掲載したりするなど、地域に合わせた戦略を提案します。
自治体や地元企業と協力し、地域性を活かした商品や体験の宣伝に成功すれば、地域の活性化に繋げられるでしょう。地方が注目されるようになれば、さらなる人を呼び込む広告を打ち出したり、新たな商品開発を進めたりする好循環を作り出せるでしょう。
仕事としての地方創生への取り組み
ここまでは行政による地方創生の取り組みを紹介しましたが、企業が仕事として地方創生に取り組み事例も多く存在します。ここでは、仕事として地方創生に携わる方法を5つ紹介します。
まちづくり・観光事業支援
魅力のあるまちづくりに成功すれば観光客が増加し、まち全体の経済が活気づくと予想されます。実際に観光客の獲得を目指して、まちづくりの計画を立てている自治体は少なくありません。そういった自治体の多くは、まちづくりの知見を持つ業者と連携して計画を立てています。
「まちづくり」の代表的な仕事としては、地域に根ざした商品開発・販売やアンテナショップのプロデュースなどが挙げられます。
また、地方自治体が運営する観光協会や地域の観光施設の職員もまちづくりや観光に携わる仕事と言えます。
人材の育成・採用
地域活性化のためには、まず「地域を元気にしたい」と考える人材が求められます。そういった人材を地方のコミュニティに集めて育成を行う仕事も、地方創生関係の仕事と言えます。人材育成を行うNPO法人や一般社団法人は代表例です。また、地域活性化に関心のある人材を探して採用する人事職も、地方創生に関わる立派な仕事と言えます。
地域の魅力発信
地域の魅力や特性を全国各地に情報発信してアピールすることで外部から人を呼び込み、地域経済活性化につなげる仕事があります。この仕事の例としては、地域プロモーション・ブランディング会社が行う地域の魅力の全国発信や観光振興が挙げられます。具体的にはプロモーションサイトの運営や、アンテナショップの展開・経営を行う仕事です。
地方創生プロジェクト立案
地方創生を成功に導くためには、その地域における課題を理解し、適切なプロジェクトを考案しなければなりません。地方創生プロジェクトの内容を考えるコンサルタントやエリアマネージャー、また広告代理店は企画を考えられる代表的な仕事です。
このような仕事につくためには、まちづくりに関する専門知識やマーケティングへの知見が求められます。
住みやすい街づくり貢献
地域の生活を支える仕事としては、電力・ガス・水道などのインフラ業や建物や道路の工事を行う建設業が挙げられます。これらの仕事は住みやすい街づくりに大きく関わっていて、地域の人たちの生活を根本から支える大切な存在です。また、地域の公共交通機関を運営する、鉄道・バス会社も、生活の利便性を大きく支える仕事と言えます。
地方創生を仕事にするメリット
地方創生に関わる仕事が盛んになると、仕事をする本人だけでなく、地方自治体や企業にもさまざまなメリットがもたらされます。ここでは、地方創生を仕事にするメリットを4つ紹介します。
社会に貢献できる
仕事を通して地方創生に携わると、仕事に対するやりがいを多く感じて、モチベーションを向上させられる可能性があります。その結果、働き手は仕事に対して前向きな気持ちで取り組めるようになるはずです。
また、企業として地方創生事業に取り組むと、社会的責任を果たせるだけでなく、企業に対する評価が向上して、社会的価値が高まると期待できます。
自治体や企業の活性化につながる
地方創生に関わる仕事についた場合地域の雇用数の増加とともに地域経済の活性化を期待できます。また、その過程で地域の人やコミュニティとのつながりが生まれて、企業の事業自体の活性化も期待できます。
地方創生事業としての仕事があることで、働き手となる「ひと」が集まり、地域が活性化すれば、地域の魅力もさらに高まるという好循環が生まれるはずです。
国や自治体から補助金を得られることも
地方で起業を行う、あるいは東京などの都市圏から、転職と同時に地方へ移住する人を対象として、地方公共団体が補助金を支給する取り組みが行われています。前者は「起業支援金」、後者は「移住支援金」と呼ばれる補助金で、地方公共団体が主として行う事業です。
起業支援金については、東京都圏以外の地域で新たに起業、もしくは事業継承または第二創業する場合に、最大200万円が支給されます。
参考:起業支援金の支給概要|内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
移住支援金は、東京23区に在住または通勤する人を対象として、東京圏外へ移住し起業や就業を行うことを条件に、地方公共団体が支給を行うものです。支給額は最大100万円(単身の場合は60万円)です。
参考:移住支援金の支給概要|内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
生活費を安く抑えられる
総務省が公表した2022年度の「小売物価統計調査(構造編)」によると、全国平均を100とした消費者物価指数は、東京都が104.7ポイントです。一方で、他の都道府県、特に都市圏ではない地方では100ポイントを大きく下回っていて、最も低い宮崎県では96.1ポイントとなっています。
このデータに基づくと、東京都など都市圏と比較した場合、地方の生活では費用を安く抑えられると期待できます。
地方創生を仕事にするデメリット
地方創生に携わる仕事は大変魅力的ではありますが、デメリットがまったくないわけではありません。ここでは転職活動を始める前に知っておきたい注意点を紹介します。
転職先によっては地方創生プロジェクトが頓挫してしまうことも
企業が地方へ新規事業を展開するなど、地方創生プロジェクトを実行する場合、事業がうまく進まずにプロジェクト自体が頓挫するリスクがあります。地方創生プロジェクトの一環として、その企業に雇用された場合、プロジェクトの頓挫によって最悪の場合には解雇となるおそれがあるものです。
地方創生プロジェクトの仕事に就きたいと考える場合には、プロジェクトが頓挫した場合の働き手の処遇について、あらかじめ確認するようにしましょう。
住んだことのない街は移住後に後悔することも
今まで住んだことのない街に移住する場合、交通の便や気候、商業施設の充実度において、東京圏と比較したときの満足度が低下する懸念があります。移住する前には移住先のデメリットを把握しておいて、移住の是非や対策を検討するとよいでしょう。
地方の転職エージェントであれば、移住先の生活や企業事情にも詳しいため、一度相談すると有益な情報をもらえるかもしれません。
年収が下がる可能性が高い
厚生労働省が公表した、令和4年「賃金構造基本統計調査」によると、年収の全国平均は311.8万円。東京都は375.5万円、神奈川圏は335.6万円、最下位は青森県の247.6万円です。この結果からは、東京圏とそれ以外の道府県で年収に大きな差があることがわかります。
しかし、東京都は家賃も頭ひとつ抜きんでることから、移住後は住居費を抑えられる可能性があります。最終的に転職前と変わらない生活水準を期待できそうです。
地方創生の取り組み事例
地方創生政策は、行政の支援と指導のもと、地域企業や移住者へのさまざまな取り組みが行われています。ここでは、地方創生の取り組み事例を3つ見ていきます。
北海道富良野市の「ルーバン・フラノ構想」
富良野市は北海道を代表する観光地として有名ですが、その郊外は観光客がもたらす恩恵にあずかれず、廃業が相次いでいました。そこで富良野市や商工会議所は郊外の空き地に目をつけ、官民一体のまちづくり組織を設立しました。
空き地に職の魅力を発信する複合施設の「フラノマルシェ」を開設し、「食と農」をテーマに食品を販売したところ、注目を集めています。年々参加者は増え続け、平成27年における売上は7億3,300万円を達成しました。空き地を有効活用した地方創生に成功した事例です。
兵庫県丹波市の起業促進によるまちづくり
歴史のある古民家が建ち並ぶ兵庫県丹波市では、老朽化が進む店舗やその跡地を利用してレストランなどの出店を促進しています。また、市とまちづくり会社が連携して店舗改修に必要な財政支援を実施することで、起業の活性化を目指しています。近隣の山林で駆除した鹿を用いた鹿肉料理店のオープンは大きな話題を呼び、Iターン者の増加に成功しました。
岐阜県高山市の観光地誘致
岐阜県高山市は歴史的な街並みや高山祭、温泉などの豊富な地域資源を活用し、観光地誘致を推進しています。特に、インバウンド観光に注力しており、1996年から本格的に海外でのプロモーションを開始しました。2011年には海外戦略部署を立ち上げ、インバウンド、海外への物販、交流を一体的に推進するための体制を整えました。
結果として高山市の外国人観光客数は大幅に増加し、現在では人口の5倍を超える外国人が宿泊するほどです。このように観光業は地方創生に繋がるだけでなく、地域が持っている魅力や特性を世界中に知ってもらうことができます。
転職で地方創生を目指す人は転職エージェントに相談しよう
昨今、政府の後押しによって注目を集めている「地方創生」。地方創生に関わる仕事をすることで、働き手にとっても企業および社会にとっても多くのメリットが期待できます。
一方で、地方における求人の少なさや未知のエリアに移住することへの不安はつきものです。地方の求人に強い転職エージェントであれば、豊富な求人のなかから本当に地域創生に貢献できる仕事を見つけられるかもしれません。
ヒューレックスは、地方創生を目指す転職エージェントです。地方銀行と提携していることから、地元の優良企業の求人が豊富で、地方創生や地域活性化に携わることのできる仕事も紹介可能です。地方への転職をお考えの方は、一度ぜひヒューレックスにご相談ください。
この記事の監修
須賀川 敏哉
神奈川県出身。早稲田大学卒業後、大手証券会社に入社。人材業界では、通算20年以上のキャリア。10年間の証券営業を通じ、経済や景気動向、企業動向の見方を養う。 大手総合人材サービス会社では、首都圏拠点立ち上げ、新宿・丸の内支店長、金融・外資部長、東京本社エリアディレクターを歴任。 ヒューレックスでは、転職支援を中心に、コンサルタントとして幅広い職種と年齢層に対応。
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