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中小企業の後継者不足の現状
東京商工リサーチの「休廃業・解散企業」動向調査によると、2017年に休廃業・解散した企業数は28,142件。前年と比べると1,400件ほど減少したものの、2008年から見てみると、3,000件以上も増加しています。
一方、企業の倒産件数は年々減少傾向にあります。2014年以降は1万件を下回る数値で推移しており、休廃業・解散した企業と比べると、3分の1程度であることがわかります。
休廃業・解散 = 資産が負債を上回る「資産超過」状態での事業停止
倒産 = 企業が債務の支払い不能、経済活動の継続困難な状態での事業停
※引用:東京商工リサーチ
※東京商工リサーチが保有する企業データベースから「休廃業・解散」が判明した企業を抽出。「倒産(法的整理、私的整理)」以外の方法で事業活動の停止したもの。
出典:東京商工リサーチ 2017年「休廃業・解散企業」動向調査
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180115_01.html
休廃業・解散した企業の8割以上が高齢経営者
2017年に休廃業・解散した企業において、60代以上の代表者(経営者)の割合は全体の約83.5%、80代以上が約14.7%を占めました。
出典:東京商工リサーチ 2017年「休廃業・解散企業」動向調査
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180115_01.html
経営者の高齢化は加速するも世代交代は進まず
経営者の高齢化は年々進行しており、2016年の経営者の平均年齢は過去最高の59.3歳をマークしました。しかし、現状とは裏腹に経営者の世代交代は進んでおらず、2016年における交代率は4%にも満たない数値で推移しています。
出典:帝国データバンク「全国社長分析(2017年)」http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p170106.pdf
2020年以降に大廃業時代が訪れる
上述した内容から、経営者の高齢化が進む一方で後継ぎが見つからず、休廃業・解散を余儀なくされる企業が多くなっていることがうかがえます。
中小企業庁の調査によると、1995年~2015年の20年間で中小企業経営者の平均年齢は20歳近く上昇。2020年頃までには団塊の世代の中小企業経営者30万人以上が70歳に達し、引退時期を迎えるといわれています。
ところが、中小企業の事業継承は円滑に進んでおらず、多くの中小企業が後継者難によって姿を消す「大廃業時代」が訪れるという懸念の声も聞こえてきます。
出典:中小企業庁「事業承継5ヶ年計画を策定しました」(平成29年7月)http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170707shoukei.htm
休廃業・解散をする企業の半数近くは黒字経営の会社だといわれています。こうした企業の休廃業・解散に歯止めをかけなければ、地域の働き口や生産力が失われるばかりか、国内全体の経済に大きな打撃を与えるでしょう。また、企業が培った優良な技術やノウハウも失われかねません。
出典:中小企業庁 2017年版 中小企業白書「第1部 平成28年度(2016年度)の中小企業の動向 」
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/index.html
最適な後継者を選ぶために~後継者選びのポイント~
後継者の候補として、「親族」「自社の従業員」「外部の人(親族・従業員以外)」という選択肢が考えられます。
後継ぎ選びの大前提として、まずは、後継者候補に経営者としての能力があるかどうかを判断しなければなりません。経営者の資質があり、後継者にふさわしい人物を選定するのが重要です。
親族以外へのバトンパスも検討する
自分の子どもを後継ぎにしたいと考える経営者は多くいます。以前は子どもや配偶者といった親族が後を継ぐのが当然という考え方がありましたが、ここ数年では非同族(親族以外)が後継者となる割合が年々増加しています。
出典:帝国データバンク「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p171108.pdf
親族が後継者となれば、スムーズな事業承継が期待できますが、本人にその気がない、既に別の仕事で成功している、などといった場合は難航するでしょう。親族以外で、信頼できる第三者を後継者候補に選ぶことも選択肢の1つです。
後継者に引き継ぐための事前準備を早めに行う
後継者へのバトンパスは、そう簡単なことではありません。後継者を選んだとしても、そもそも相手が承諾してくれるとは限りません。
株式を引き継ぐ場合の資金や、会社の債務返済などといった金銭的な問題をはじめ、事業承継にはさまざまな障壁が存在するため、後継ぎとなる人物の了承を得るだけでも長い時間を要すします。
中小企業庁の調査によると、「後継者の選定を始めてから了承を得るまでに3年以上要した」企業が37.1%で、「1年~3年以内の割合」が42.4%と最も多く、1年以内に了承を得られるのは20%ほどでした。
後継者が決まってから経営者の育成をすることを考えると、事業を引き継ぐまでにはさらに時間がかかります。事業継承の際には、育成期間も含めた計画を立てておいた方が良いでしょう。
出典:中小企業庁 2017年版 中小企業白書「第2部 中小企業のライフサイクル」http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/index.html
また、後継者選びの事前準備として、経営者は自社の現状や課題を詳細に把握しておく必要があります。その上で、後継者となる人物の業務内容や取り組むべき事柄などを洗い出し、もれなく引き継ぐようにしなければなりません。
さらに、新たに経営者となる後継者を外部から採用する場合、従業員たちに受け入れてもらえるような環境作りが欠かせません。社内の理解を得られるよう、創業当時から会社を支えている役員陣やベテラン従業員たちとの間を取り持つことも大切です。
親族・従業員・外部の人を後継者に選ぶメリットとデメリット
後継者候補の「親族」「自社の従業員」「外部の人材(親族・従業員以外)」は、選ぶ上でそれぞれメリットとデメリットがあります。これらの内容をふまえ、自社の現状と照らし合わせた上で、新たな経営者にふさわしい人物は誰なのかを検討すると良いでしょう。
親族を後継者に選ぶ場合
親族が後継者になれば、社内外の関係者に受け入れられやすい上に、事業承継がスムーズに行える可能性が高いでしょう。
子どもであれば、いずれ後継ぎになるだろうという意識が芽生えるのも早く、後継者に確定すれば、育成に十分な時間をかけられるというメリットもあります。
一方で、相続はすんなりできたとしても、いつでも話せるという安心感から、肝心な事業の引き継ぎがあいまいに済ませてしまうこともあるようです。
さらに、経営者としての資質や能力に欠ける場合や、不本意で事業を引き継いだ場合には、経営の悪化や倒産といった事態に陥ってしまう可能性もあります。
また、後継者候補になり得る親族が多数いる、複数の子どもが従業員となっているなど、後継者の選定が難しくなるケースもあります。
従業員を後継者に選ぶ場合
従業員を後継者に選ぶ場合、普段の仕事ぶりから実務能力や経営者としての資質を事前に把握することができます。ほかの従業員だけでなく、取引先などの社外からの信頼も厚い人物であれば、後継者になったときに、新たな経営者として受け入れてもらいやすくなるでしょう。
しかし、後継ぎ候補に指名されることを期待していた親族やほかの従業員たちの理解を得られず、就任後に信頼関係を構築することが難しくなるという懸念点もあります。
さらに、株式を引き継ぐ場合の資金や、会社の債務返済などといった金銭的な問題により、事業継承が困難になるケースもあります。
外部の人材(親族・従業員以外)を後継者に選ぶ場合
親族や従業員以外の外部の人材を後継者に選ぶ場合は、経営者としての能力がある優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
ただし、希望通りの優秀な外部の人材を見つけるのは、かなり難しいといっていいでしょう。
たとえ見つかったとしても、素性をよく知らない人物であれば、ほかの従業員たちからなかなか受け入れられない上、信頼関係を築くのにも時間がかかるため、後継者としてじっくりと育成していく必要があります。
自社にはない外部の新しいやり方が採用されることで、企業の新たな成長も期待できますが、その一方で企業理念が十分伝わらずに会社の方向性が定まらない、経営が悪化する、などといった懸念もあります。
外部の人を後継者にする場合は、親族や従業員よりも、慎重に候補者を選定する必要があるでしょう。
後継者に求められる能力とは
後継者、後継ぎとなる人物には、社内外の関係者たちから大きな期待が寄せられるものです。事業を継承できるだけの器・能力は必須でしょう。
中小企業庁の調査によると、中規模・小規模企業経営者が後継者に求める資質・能力は「経営を担う覚悟」「事業に関する専門知識」「人柄・人間性」「リーダーシップ」などといった項目が挙げられていました。
このことから、後継者となる人物には、経営者マインドを持ち合わせていることに加え、自社の事業や業界の知識が豊富で、社内でリーダーシップを発揮する能力が求められるといえるでしょう。
出典:中小企業庁 2017年版 中小企業白書「第2部 中小企業のライフサイクル」http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/index.html
今が事業継承の絶好のタイミング
経営者の高齢化が進み、後継者不足を理由に休廃業・解散する中小企業が増えているという現状を受け、中小企業庁はさまざまな支援策を打ち出しています。
中小企業庁は、地域の事業を次世代にしっかりと引き継ぐとともに、事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極的にチャレンジしやすい環境を整備することを目指しています。
2017年には「事業承継5ヶ年計画」を策定しました。内容は、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とし、支援体制、支援施策を一から徹底的に強化するというものです。
また、事業承継の促進に向け、支援の対象となる企業をピックアップし、事業継承、継承後の事業再生までを一貫して支援する体制を確立するとしています。
具体的な支援事業の内容は、後継者問題に悩む中小企業のM&A(会社の合併・買収など)マッチング支援、相続税や贈与税といった事業承継税の納税猶予対象の拡大・新たな減免制度の創設、事業承継やM&Aに必要な資金の支援などです。
平成30年4月には、事業承継時に発生する贈与税や相続税の納税猶予または免除を認める「事業承継税制」が大きく改正されました。以前に比べ、事業承継税制を受けるための要件が緩和されたため、対象企業も増加しています。
特に事業承継税制の見直しは、事業継承のネックとなる「後継者が株式を引き継ぐ場合の資金問題」の解決につながることが期待できます。
こうした支援が集中的に行われている今が、事業継承の絶好のタイミングといえるのではないでしょうか。
まとめ
日本の経済・産業を支える中小企業数の減少は、国全体の経済成長の落ち込みにもつながりかねません。
日々の事業経営が忙しくて時間がない、後継ぎがいないが事業継承のやり方がわからない、などといった理由から事業継承を見合わせたり、後回しにしたりといった経営者もいるでしょう。しかし、経営が安定しているのであれば、休廃業・解散の道だけは避けたいところ。どうしても後継者が見つからない場合はM&Aで会社を買ってもらうという手もあります。
自社の事業と従業員を守り、創業から培った優良な技術やノウハウを次世代へ引き継ぐためにも、早いうちから事業継承を意識し、今のうちから準備を進めることが重要です。
事業継承にあたり、何から手をつけて良いかわからないといった場合は、まず、ヒューレックスグループのAOBA(東日本事業承継推進機構)にご相談ください。
税制優遇など、事業継承に関わる金融支援など充実している今が、事業継承の絶好のタイミング。後継者の選定・育成には時間がかかるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
この記事の監修
須賀川 敏哉
神奈川県出身。早稲田大学卒業後、大手証券会社に入社。人材業界では、通算20年以上のキャリア。10年間の証券営業を通じ、経済や景気動向、企業動向の見方を養う。 大手総合人材サービス会社では、首都圏拠点立ち上げ、新宿・丸の内支店長、金融・外資部長、東京本社エリアディレクターを歴任。 ヒューレックスでは、転職支援を中心に、コンサルタントとして幅広い職種と年齢層に対応。
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