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PSMCが宮城県に半導体工場建設
PSMCが宮城県に半導体工場を建設すると発表したのは2023年10月31日です。ここでは具体的な計画のスケジュールや建設予定地の詳細、宮城県が選ばれた理由や採用・求人の情報を紹介します。
工場が建設されるのはいつ?
PSMCによると、工場の運用スケジュールは次の通りです。
- 運用開始:2026年初頭
- 第1フェーズ:2027年
- 第2フェーズ:2029年
2027年に計画されている第1フェーズでは、40ナノメートルおよび55ナノメートル技術を使用してチップを製造し、目標月産量は1万枚です。2年後に計画されている第2フェーズでは、28ナノメートル技術の導入を目指し、目標月産量は4万枚です。
日本の新工場は、PSMCにとって自動車用半導体セグメントを拡大する戦略的な動きです。現在、自動車用半導体は同社の売上の8%を占めていますが、新工場によりシェアを将来的に30%まで増やすことを目指しています。
当初、総投資額は約8,000億円とされていました。ただ、2024年5月の会見では、「投資総額が9,000億円に及ぶ」と見込まれています。なお、PSMCはプロジェクトの第1フェーズに4,200億円を投資する予定です。
どこに工場が建設される?
建設予定地は、宮城県黒川郡大衡村の第二仙台北部中核工業団地です。第二仙台北部中核工業団地は、仙台北部に設けられたテクノポリスの一角として開発されている工業地域です。仙台市の都市機能を背景に、先端技術を中心とした産業の拠点として注目されています。
建設予定地である宮城県黒川郡大衡村は、自然と先進技術が融合する魅力的な地域です。昭和万葉の森や万葉クリエートパークなど自然豊かな施設があり、大衡村ふるさと美術館では地元の芸術家の作品を鑑賞できます。休暇にはおおひら万葉パークゴルフ場でリフレッシュしたり、牛野ダムキャンプ場でのキャンプやハイキングを楽しんだりすることも可能です。
宮城県黒川郡大衡村は先端技術と環境が調和しているうえに、インフラ設備が整っているのも特徴です。東北縦貫自動車道の大衡インターチェンジと繋がっているため、交通の面でも便利といえるでしょう。
なぜ宮城県に建設されるのか?
PSMCの新工場が宮城県黒川郡大衡村に建設される理由は、次の点が評価されたためです。
- 給水
- 排水
- 高圧電源
- ロジスティックなどインフラの堅牢性
- 災害への強度
- 周辺の住環境
- 産官学連携の可能性
SBIホールディングス株式会社によると、工場の建設計画を発表してから30を超える自治体が誘致を申し出たそうです。その中から上記の理由により宮城県黒川郡大衡村が選ばれ、今後は自治体や協力企業、協力金融機関等と計画を検討する予定です。
採用や求人の情報は?
採用や求人の情報はありません。ただ、同じように日本に新工場を建設したTSMCを例に挙げると、給料は次のとおりです。
- 大学学部卒:28万円
- 修士卒:32万円
- 博士卒:36万円
新規大卒者の平均給与は約22万5,000円、大学院卒で約25万3,000円とされており、全国平均より5万円も高い水準です。
以上の点から推測すると、PSMCの新工場も平均より高い給料をもらえる可能性があるといえるでしょう。
宮城県のPSMCを取り巻く現状
PSMCが宮城県に新たな半導体工場を建設するという動きは、発表当初から大きく変化が見られています。ここでは3つのニュースから、宮城県のPSMCを取り巻く現状を紹介します。
【2024年5月】当初の計画から一部拡張
2024年5月、PSMCは宮城県大衡村に建設予定の半導体工場について、建設予定地を当初の計画から一部、拡張することを発表しました。拡張に伴い、投資総額も8,000億円から9,000億円に拡大されることが明らかになりました
拡張の背景は、敷地の見直しの増加です。関係者によると、建設を予定している建物の広さが16.8ヘクタールから18.8ヘクタールに拡張される予定であるとわかっています。また、人手不足や資材の値上がりも建設費用が増加した要因の一つとされています。
今回の拡張に伴い、工場の開始は「2024年の後半」から「2025年中」と遅れることが明らかになっています。一方で、工場の稼働は「2027年」から変更はないとされています。
【2024年6月】宮城県を「国家戦略特区」指定へ
TSMCの熊本県進出に伴い、外国人材の円滑な受け入れを図るため、内閣府は熊本県を国家戦略特区に指定することを発表しました。今回の指定では、半導体産業育成のための「連携“絆”特区」として、熊本県と宮城県が共同で国家戦略特区に追加されます。
今まで説明してきたとおり、宮城県ではPSMCが2027年に新工場を稼働させることから、半導体人材の確保が喫緊の課題となっています。国家戦略特区の指定により、両県は半導体関連産業に従事する外国人の在留資格審査の一部を県が担うことができるようになり、審査期間の大幅な短縮が見込まれます。
国家戦略特区に追加されたことにより、東北と九州がそれぞれ半導体産業の拠点として成長し、情報共有などを通じて相乗効果を生み出す可能性も期待されています。
【2024年8月】高校教員に半導体研修
宮城県は県内高校教員を対象とした、半導体の研修会を開催しました。これは大衡村で進む半導体工場新設に伴い、教員が半導体産業への理解を深め、教育や進路指導に役立てることを目的とした取り組みです。
研修会には約20名の教員が参加し、東北大学の施設で半導体の製造工程を見学したり、基板への感光剤塗布作業などを体験したりしました。
宮城県は半導体関連の人材育成・確保を課題と認識しており、今回の研修会はその一環となります。参加した教員からは「生徒への指導に活かしたい」という声が聞かれました。
PSMCとは
PSMC(力晶積成電子製造股份有限公司、Powerchipとも呼ばれる)は、台湾の集積回路メーカーです。1994年に設立され、本社は台湾の新竹市にあります。主にメモリーIC(Integrated Circuits、集積回路)やフラッシュメモリなどの半導体メモリ製品を製造しています。
受託製造だけでなく、設計、製造、テストサービスも提供しているのが主な特徴です。2020年の時点で、PSMCは3つの12インチと2つの8インチ・ウェハ・ラボを有し、世界第7位の半導体ファウンドリーとされています。
JSMCとは
JSMC(JSMCホールディングス株式会社)はPSMCとSBIホールディングスが共同出資する半導体ファウンドリの設立に向けた準備会社です。PSMC、SBIホールディングス、宮城県の3者と共に、半導体工場の建設に関わっています。
2023年12月には、電子部品大手のアルプスアルパインが自動車やスマートフォン向けの半導体の製造をJSMCに発注する方向で協議していることが報じられています。台湾に委託している製造のリスクを分散させる目的があり、JSMCへの発注が決まれば、宮城県の半導体産業振興に大きな影響を与えるでしょう。
日本国内に工場建設を計画しているその他の半導体工場
日本国内では、PSMC以外にもさまざまな外資系企業が工場建設を計画しています。ここでは3つの事例を紹介します。
- TSMCが熊本県に半導体工場を建設
- Rapidusが北海道に最先端半導体工場を建設
- サムスン電子が横浜市に半導体研究拠点を新設
それぞれ具体的に解説します。
1) TSMCが熊本県に半導体工場を建設
台湾の半導体受託生産最大手であるTSMC(台湾積体電路製造)は、2021年10月、日本に新しい半導体工場を建設することを発表しました。新工場は熊本県菊陽町に位置し、工場の開所式は2024年2月下旬に行われました。
2023年末には工場の建屋が完成し、2024年末には本格的な出荷が始まる見込みです。工場の建設にはおよそ1兆円以上が投じられ、ソニー・セミコンダクターソリューションズ株式会社やデンソー株式会社、日本政府も投資に参加しています。
工場の立ち上げに向けての人材募集や台湾での訓練が完了し、高度な技術人材を中心に、約1,500人の雇用機会が生まれると予想されています。
2) Rapidusが北海道に最先端半導体工場を建設
Rapidusは日本の主要な企業8社が出資し、先端半導体の国産化を目指して設立された企業です。北海道千歳市に最先端半導体工場を建設する計画を進めており、2027年を目途に量産化を目指しています。
新工場の建設は国支援のもとで行われ、2023年2月に起工式が行われました。回路線幅2ナノメートルの最先端ロジック半導体の量産に挑戦する予定で、2025年には試作を開始する見込みです。
このプロジェクトは、日本の半導体産業の国産化という重要な目標に向けた一歩として、国内外から注目を集めています。日本政府は特に大きく支援しており、新工場に対して合計3,300億円の補助金が提供される予定です。
3) サムスン電子が横浜市に半導体研究拠点を新設
サムスン電子は横浜市西区の「みなとみらい21地区」に、半導体の研究拠点を新設することを決定しました。新しい研究拠点は次世代パッケージング技術に特化しており、「アドバンスド・パッケージ・ラボ(Advanced Package Lab:APL)」と呼ばれています。2024年度には開設予定で、施設の面積は約2,000坪になるとされています。
サムスン電子のプロジェクトには5年間で400億円を超える投資が予想されており、日本政府は投資額の半分を補助する方向で調整を進めています。サムスン電子は研究拠点を通じて先端半導体の研究開発を加速させており、国内外の半導体産業において重要な役割を果たす可能性があるでしょう。
宮城県にもたらされる経済効果
PSMCの新工場建設によって宮城県にどのような経済効果がもたらされるかは、まだ試算されていません。ただ、経済産業省『半導体・デジタル産業戦略について』によると、TSMCが熊本県に半導体工場を建設したことによる経済効果は、2022年から2031年までの10年間で約4兆2,900億円と試算されています。
内訳は次のとおりです。
- 設備投資による経済波及効果:約9,300億円
- 操業後5年間にわたる関連産業の生産や就業者の日常消費効果:約2兆円
- 関連産業の工業団地開発:359億円
- 住宅関連投資:713億円など
さらに、直接雇用1,700人を含めて、全体で約7,500人の雇用効果が試算されています。
PSMCの日本法人社長によると、新工場の第1フェーズでは450〜500人、第2フェーズで合計約1,200人の従業員が必要になるとの見通しです。したがって、熊本県のケースに近い経済効果が期待できるといえるでしょう。
地方転職ならエージェントという選択肢も
PSMCの新工場が宮城県のみならず日本にどのような影響を与えるか、今後に注目が集まっています。すでに計画がスタートしているTSMCと近い規模であることから、大きな経済効果が期待できるとともに、高待遇の人材募集が始まる可能性もあるでしょう。
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この記事の監修
神谷 貴宏
愛知県出身。大手証券会社、半導体商社の営業を経て、総合人材サービス会社へ入社。 仙台支店での勤務後、大型派遣案件の企画から運用に従事。その後、会社の中核を担う“正社員”のサポートに携わりたいという思いが強くなり、ヒューレックスの設立に参画する。 17年余りにわたるコンサルタントの経験の中で3,000名を超える方々をサポート。個々人の”キャリア”だけでなく”価値観”を大切にしている。
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